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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)825号 判決 1965年11月30日

被告 三和銀行

理由

預入高の点を除き控訴人が昭和二五年四月二八日被控訴銀行京橋支店に対し村上晋、村上あつ子、村上アヤの各名義で普通預金の預入をなし、同支店が控訴人に対し右各名義の普通預金通帳を発行したことは、当事者間に争がない。

そこで右預入が控訴人主張の四通の預金小切手額面計金二〇〇万円でなされたものか、それとも被控訴人主張の金三〇万円の小切手でなされたものかについて判断する。

《証拠》を総合すれば次の事実を認めることができる。

控訴人はかねて知合いの宮尾利雄を通じて、もと被控訴銀行京橋支店の支店長であつた野口勇造から、同人の紹介の下に同支店に預金すると、銀行の同人に対する融資の枠がひろがるから、三ケ月程金二〇〇万円の預金をして貰いたい、そうすれば一〇万円位の礼をすると頼まれて、承諾し、昭和二五年四月二八日被控訴銀行京橋支店に村上晋名義で金六〇万円、村上アヤ名義で金七〇万円、村上あつ子名義で金七〇万円の普通預金をする段になつたところ、同日朝野口勇造の娘で渡辺剛の妻の渡辺光子が、剛の学友で親しかつた被控訴銀行京橋支店の為替係福田某より、預金申込に用いる印鑑用紙三枚普通預金元帳用紙三枚を貰受けて、控訴人が野口勇造らと共に休んでいた喫茶店に赴き、同所で控訴人が同用紙に村上晋、村上アヤ、村上あつ子の住所氏名を記し、押印をしてこれを前記光子に渡すと、同女はこれをもつて被控訴銀行京橋支店に赴き、ほしいままに右印鑑用紙と元帳用紙とに東京プラスチツク工業株式会社振出の額面金三〇万円の小切手を添えて、右村上三名名義の各金一〇万円の普通預金の預入をなし、その旨の預金通帳の交付を受けるや、直ちに剛と共に右預金通帳の金一〇万円の金額欄を、村上晋の分については金六〇万円、他の二通については金七〇万円と夫々改竄し(甲第二ないし第四号証の一ないし六)再び被控訴銀行京橋支店に戻つて前記福田に対し、後刻野口の使用人有木がくるからこれを渡してほしいと言つて前記改竄通帳三通を一時預けた。一方控訴人はほどなくして野口勇造の使用人有木と共に右京橋支店に赴き、金二〇〇万円の預入をすべく有木の指示するまま為替係の窓口で前記福田に協和銀行浅草橋支店支店長振出の額面各金五〇万円の小切手四通を渡して待つていると、その間に有木が福田よりひそかに右四通の小切手の返済を受けると共に、前記改竄通帳を受領しこれを金二〇〇万円預入の預金通帳と詐称して控訴人に交付した。一方渡辺光子は同日有木より右四通の小切手を受領するや、又も京橋支店に赴き、右小切手により内金五〇万円を夫渡辺剛名義の当座預金に、残金一五〇万円を協和美術印刷株式会社名義の当座預金口座に夫々入金した。当時被控訴銀行京橋支店において預金業務担当者は預金係と預金を受領する業務を担当する出納係であつて、福田は預金業務担当者ではなかつた。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する原審及び当審における控訴人本人尋問の結果は措信できない。

而して銀行に対し預金が成立したというには、当該銀行の所定の手続に従い預金業務担当の者に対し預入の意思表示をして現金又はこれと同視しうるもの(銀行振出しの所謂預金小切手は現金と同視できる)を交付することを要すると解すべきところ、本件においては右認定の如く控訴人が預金業務担当者でない福田に交付した前記預金小切手四通は預金係及び出納係によつて控訴人の預金として受入れられることなく福田から有木に返還せられ結局他に流用されてしまつたのであるから、控訴人と被控訴銀行との間には控訴人主張の預金は成立するに至らなかつたものというの外はない。

よつて村上晋名義で金六〇万円、村上アヤ名義で金七〇万円、村上あつ子名義で金七〇万円の普通預金が成立したという控訴人の主張は失当であつて 右預金の成立を前提として、原審の容認しない内金一七〇万円の返済を求める控訴人の請求は棄却するの外なく、これと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。

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